本格的な”寝台電車”としては世界初となる583系特急型電車を、普通列車用車両に改造したのが1984年、長崎本線・佐世保線向けに導入された715系電車です。

 

今日は前代未聞、座席・寝台兼用の特急型車両として登場した形式を”普通列車用”に転用するという、いわば荒技で登場した715系の中で九州色のイラストをご紹介。

 

715系0番台九州色は、改造後、それまで特急車両として日本全国を駆け巡っていた栄光が、まるで幻だったかのように普通列車の運用をこなす中において、わずかな期間ながらも急行”ふるさとライナー”として臨時輸送を行っています。

 

もっとも、元特急形式とはいえデッキの廃止された客室、普通用車両でも転換クロスシートが標準仕様となりつつあった時代に、ロングシートの混在する格下げ車両に急行料金を支払って乗ることは、世間一般から見て”乗り損”列車であり、ファンの間では”遜色急行”と呼ばれ、いい意味でも悪い意味でも注目されました。

 

715系自身にとっても、普段普通列車として運用される中で、久々の優等列車を申しつかるのは貴重な”晴れ舞台”だったことでしょう。

 

 

≪乗り”損”列車(笑)、715系”遜色急行”ふるさと号≫

JR化直後1987年以降の多客期、博多~佐世保・博多~長崎・博多~諫早で設定された臨時急行ふるさとライナーは、715系4両編成を使用して運用された列車です。年によって異なったようですが、座席は全席指定、一部自由席の設定があり、全席指定の頃には、出入り口付近のロングシートすらも”指定席”として販売されていたそうです。まさに”とんでも急行”ということができます。

 

この際、当時登場して間もない811系電車も博多~熊本間の急行ひのくに号に充当されていますが、いくら普通用車両とはいえ、新車で転換クロスシートならば715系の急行よりは”マシ”と捉えられたかもしれませんね。

 

このほか、臨時急行としてはホリデー号や前述のひのくに号にも充当されており、元特急車としてのステータスが近郊改造車という枠を越えさせた登板とも思えます。

 

 

≪715系電車登場の経緯≫

さて、以前の記事でも、419系・715系電車登場に関しては触れていますが、今一度おさらいします。

 

1982年、国鉄は広島地区において、これまでの長編成・不等時間隔である「列車型ダイヤ」から、短編成・一定区間での折り返し設定を設ける「パターンダイヤ」への転換を行いました。

 

今でこそ一般的であるパターンダイヤは、一定の間隔で高頻度に列車が発着することで利便性が向上するため、利用客の増加が期待できます。

 

実際にこの施策は乗客に好評で、その後国鉄はこれを全国の地方都市圏に拡大していくこととなりました。

 

しかしながら、このパターンダイヤの導入は前後方向に手間なく行き来できる”電車での運行”が前提であり、直流電化区間においてはすでに運用している車両の短編成化、先頭車化改造で賄うことができましたが、交流電化区間については、もともと地方路線であることしきり、未だ電気機関車牽引による普通客車列車や気動車による運用が続いていたため、電車車両の不足が目下の課題としてありました。

 

客車列車の場合、終着駅での牽引機の機回し・付け替え作業が発生するため、その度に時間と手間がかかります。また、気動車においても、動力性能が電車と比較して劣る点は高頻度ダイヤに向きません。

 

このような点から、国鉄ではパターンダイヤの導入に則する形で、交直両用電車の417系および交流専用の713系電車を完成させましたが、時は国鉄の保有する巨額債務が迫っており、新型車両の製造は、コスト面の問題から十数両が製造・試作されたにとどまり、打ち切りとなりました。

 

結果、それら交流電化地区、交流・直流の混在する地域に対して捻出されたのが、当時新幹線の延伸開業による特急運用の減少や、客室設備で昼行用特急型電車に見劣りして運用を失いつつあった、581・583系だったのです。

 

元・特急車ゆえ、乗降扉の狭さや、寝台設備格納による客室スペース内の圧迫感はありましたが、少なくともボックス型のクロスシートは特急現役当時のままで通勤時の混雑や乗降の不便さを除いたとしたら、あくまで『普通列車としては』、それなりに”乗り得”だった、と言えます。

 

 

今回、ふるさとライナーを取り上げるにあたり「ふるさとライナー」のヘッドマーク資料を探しましたが、なかなか鮮明なものが見つからず、不本意ながらもタウンシャトルのヘッドマークを用いた際の”ふるさとライナー”を表現してみました。

 

“急行”の赤い2文字が、心なしか誇らしげに見えました。

 

 

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